株式会社コーセー(以下、コーセー)は、1946年の創業以来、英知と感性を融合した独自の美しい価値と文化を創造する「美の創造企業」として、化粧品の製造・販売を中心に事業を展開している。多彩な提供価値をもつ個性豊かな38のブランドを保有し、67の国と地域で事業を展開している。
事業領域が拡大するなか、DX施策の推進が急務となった。コーセーは、コロナ禍にオンラインカウンセリングプラットフォーム「WEB-BC SYSTEM」やデジタルカウンセリングツール「KOSÉ HADA mite」を迅速にリリースするなど、積極的にDXを押し進めてきた。しかし、IT活用の拡大に伴い、情報統括部ではリグレッションテスト等の運用工数が増加し、限られたリソースが逼迫する課題に直面していた。
そこでコーセーは、リグレッションテストの工数削減のため、Autifyを導入し、この課題を解決する道筋を見出した。
ここでは、情報統括部 DX推進課 横山 春佳氏、情報統括部 基盤開発課 森口 和人氏にAutify 導入とその効果について話を聞いた。
―本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは自己紹介をお願いします
横山氏 情報統括部 DX推進課の横山です。私たちはDXを推進するチームとして、業務効率化から全社にまたがるデジタル施策まで幅広く取り組んでおります。その中で、私自身は新規システムの企画や導入推進を主に担当しております。
森口氏 情報統括部 基盤開発課の森口です。基盤開発課ではインフラ基盤を主に担当しています。
―Autify導入以前のお話を聞かせてください。開発・検証プロセスにおいて、これまでどのような課題や非効率が存在していたのでしょうか
横山氏 全社的にIT活用を加速させた結果、システムの数と複雑性が急増し、運用工数も比例して膨れ上がるという課題に当たりました。
特にコロナ禍には工数が著しく増加しました。動画配信サービス、オンラインカウンセリング、肌チェックツールといったサービスがブランドごとに立ち上がったため、1年間で3件ほどのペースで同様のシステムが量産されました。
DX推進課はシステムの企画から運用までを一気通貫で担っており、テスト専任者がいないため、当時は運用・保守にリソースが偏り始めたことを覚えています。
このままではチームの疲弊を招くだけではなく、本来の業務である新しい取り組みの推進が難しくなるというような危機感がありました。
ーその課題は顧客体験やビジネススピードにどのような影響があったのでしょうか
横山氏 複数のシステムを並行して運用する中で、運用負荷がボトルネックとなり、1つあたりのリリースのスピードが低下していました。その結果、お客様への価値提供のタイミングを逃し、ビジネス機会の損失につながるという懸念が生じていました。
当時は属人的なノウハウの活用など、力任せの対応でしのいでいましたが、この問題は今後ビジネスの成長を阻む本質的な壁になるだろうと私たちは捉えていました。
ー特に印象的だった「ボトルネック」や「壁」はどのようなものでしたか
横山氏 最も大きな壁は、システム変更のたびに発生するリグレッションテストです。
本質的には同じことの繰り返しとなるのですが、テストの工程が職人技のように属人化していたことで、メンバーの貴重なリソースが取られるというような状況が続いていました。
さらに、サービスの質を向上させるために新たな機能を追加すればするほど、テストおよび運用の工数を増やさざるを得なくなるという心苦しいジレンマも抱えていました。
ーそうした課題を乗り越えるために、どのような戦略や施策を実行されたのでしょうか
横山氏 私たちのチームは、メンバーがそれぞれ専門領域を持つ強みがある反面、その分属人性が高くなっていました。そのため、現況を根本的に変えるべく、テストの工数の徹底的な削減と、仕組みで回せる体制の構築を最優先課題に捉えました。
具体的には、再現性と可視性の高いプロセス変革への取り組みです。可視性とは、技術力を必要としない、視認で理解できるものを指します。
最初に取り組んだのは、テストケースの標準化です。テストの種別を大項目、中項目、小項目に振り分け、どういう観点でどういうユニットで組んで行うべきかを策定しました。さらにそこから再現性と可視性という観点から再度検討し、自動化できる工程を洗い出しました。その結果として、手動テストは、再現性それから可視性がどちらも高い工程ととらえ、Autify NoCodeによる自動化で構造転換を図るという戦略を選択しました。
ーAutify NoCode導入の背景や選定理由についてお聞かせください
横山氏 私たちは常に情報収集を広い観点で実施しているため、テスト自動化ツールに関してもアンテナを張っていました。そこで、Autify NoCodeが候補に挙がりました。
選定において重視したのは、とにかく使いやすいことでした。当時は初期導入の工数すら惜しい状況で、自動化の有効性以前に導入のハードルが低いことが必須条件でした。Autify NoCodeは直感的なUI/UXに優れており、ノーコードであるため、新卒社員でも簡単に扱えるという点が決め手の1つでした。
費用対効果は事前に算出していましたが、そもそもチーム内でテスト工数の増大を課題として認識していたため、導入への理解はスムーズに得られました。Autify NoCodeの皆様が我々のチームの一員として真摯に伴走してくださったことで、スムーズな導入が実現しました。
ー現在、Autify NoCodeをどのように活用されていますか
横山氏 現在は新卒から入社3年目までの若手のメンバーが中心となってAutify NoCodeを活用しています。顧客向けのウェブサイトをはじめ、社内システムにも活用していて、品質を維持しながらスピード感ある運用をしています。
森口氏 私は顧客向けブランドサイトの一部のテストを担当しています。細部の表示や動作の確認をAutify NoCodeを使って自動化することで、ミスなく効率的なテストを心がけています。
ーテストの自動化にハードルはありませんでしたか
森口氏 私が初めてAutify NoCodeを使用したのは昨年度で、入社2年目のタイミングでした。当時はプログラミングの知識もなく、テストの自動化については知識を持つ上級者だけができると考えていました。しかし、実際にAutify NoCodeに触れてみたところ、UIが直感的でわかりやすく見たままの操作ができたので、自分でもできると感じました。今では1人でテストの自動化に取り組めるようにもなりました。
また、Autifyはサポートもとても親切で、些細なことでもすぐ相談できるので、初心者でも安心して進められる環境が整っていると思います。
サポートへの問い合わせをするとき、本来はその事象をどう伝えればいいのかといった段階から考えなければいけないのですが、サポート担当者がひとつの事象から派生するような情報も汲み取ってくださり、的確な回答をいただくことができました。
ーDX推進課として、他チームとどのように連携されてきましたか
横山氏 当社の情報統括部では、プロジェクト単位で業務を進めることが多く、それぞれのメンバーが、課やチームの単位を超えて横断的な連携をすることを基本にしています。
ひとつの好例として、インフラ基盤担当の森口が、顧客向けサービスのプロジェクトに加わったケースがあります。
森口は自身のシステム専門領域に留まることなく、サービス全体を見据えてビジネス部門と共に要件検討を重ね、ビジネスとITを繋ぐ役割を果たしました。
このようにプロジェクト単位で他チームと共に働くことでメンバー一人ひとりが専門領域や役割に捉われず、プロジェクトの成功という共通目的に向かって価値を発揮できる体制を実現しています。
ー取り組みの結果、プロセスやチームにどのような変化がありましたか?定量的・定性的な成果があればぜひ教えてください
横山氏 Autify NoCodeの導入で、属人化していたテスト工程が、誰でも再現可能なプロセスへと変化しました。特定の人がやらなければ進まない工程というものを、チーム全体が誰でも簡単に実行可能な工程に転換できたことは、とても大きな進化だと感じています。
現時点で、4人程度のチームだけでも、およそ年間100時間ものテスト工数削減を実現できています。ただし、これはあくまでスタートラインであり、まだまだ削減の余地は大きいと捉えています。体感としてはまだ20%程度の進捗です。
森口氏 Autify NoCodeは業務の引き継ぎにおいても役立っています。引き継ぐ人がレコーディング動画を見るだけでテストの方法を理解できるので、長い目で見ても工数削減に繋がると考えています。
ーAutify NoCodeを導入して社内外の反応や評価はいかがでしたか
横山氏 社外からは、限られたリソースをより本質的な業務に集中させるためにテスト工程の仕組み化を行ったということに対して、とても興味や関心を寄せていただいております。それが結果として若手の社員がプロジェクトの中心メンバーとして活躍できているということにつながるなど、社内においてもより良い流れができているように思います。
ー今後、開発やテストの分野でさらに取り組んでいきたいテーマはありますか
森口氏 テストの自動化によって確保できた時間で、「全体最適(企業や組織全体を最適な状態にすること)」について考えるようにしたいと思っています。例えば「その業務課題はシステムで解決するべきか」といった上位概念から検討できるように時間配分をしたいと思っております。
横山氏 現在、生成AIをはじめとした新しい技術の進化が加速しており、開発それからテストの分野にも大きなインパクトを与えつつあります。私たちとしても、この流れをチャンスと捉え、自動化にとどまらず、より高度なプロセス改革に取り組んでいきたいと考えております。
ー顧客体験の価値向上という観点で、今後DX推進課として目指す姿を教えてください
横山氏 私たちにとっては、お客さまに期待以上の体験を届けることが大切であり、システムはあくまでその手段に過ぎません。DX推進課としては、お客さまはもちろん、社内の現場にも深く寄り添いながら、ITの力でビジネスを支え、時に変革をリードする存在でありたいと考えています。
ー同様の課題に直面している他社に向けて、伝えたいアドバイスやメッセージがあればお願いします
横山氏 忙しくて新しいサービスなんか導入できないと感じている方もいらっしゃると思います。私たちもそう思ったこともありましたが、実際に新たなサービスを導入してみると、チーム全体に想像以上の活気が生まれ、前向きな変化が起きていきました。
特に印象的だったのは、導入の検討を進める中で、若手社員の貴重な時間をテスト作業に使うのはもったいないというような意見が内部から自然と出てきたことです。そこから、人がやるべき仕事と仕組みに任せるべき仕事、整理する動きというのが加速しました。導入すること自体を負担だと思いがちですが、それは変化のきっかけにもなります。
忙しいからこそ、常に視点を変えて考える癖をつけることで、柔軟に進化し続けられる組織へ繋がっていくと私たちは考えています。