三菱UFJ eスマート証券株式会社(以下、三菱UFJ eスマート証券)は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)におけるインターネット専業の証券会社。
三菱UFJ eスマート証券のミッションは「すべてのひとに資産形成を。」。これまで一部のプロフェッショナルにしか扱えなかった投資の世界は、ネットの登場により誰にでも日常的に行えるようになっている。その時代において、使いやすく、利便性の高い機能・サービスを提供し、スマートな資産形成を支えている。
ネット証券というスピード重視の業界で勝ち抜くため、高頻度で商品をリリースしなければならないが、一方で金融業として品質を犠牲にしてはならない。三菱UFJ eスマート証券は、アジャイルとウォーターフォールのはざまで、品質とスピードどちらに偏重することもなく、膨大なテスト工数をスピーディーに実行する手段を求めていた。
その際、コスト削減やプロセス改善に役立ったのが「Autify NoCode Web(ノーコードテスト自動化ツール)」だ。今回は、システム開発部IT戦略グループ グループ長の村上様にAutify NoCodeの導入と効果、リリースされたばかりの「Autify Nexus」への期待について話を伺った。
― 本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは自己紹介をお願いできますか?
村上様 システム開発部IT戦略グループ グループ長の村上です。弊社の中には、システム開発部とシステム技術部という2つの部がありまして、システム技術部は商品やシステム単位でグループごとに開発を行っています。我々は、それらの品質を担保して期日通りにお客様へデリバリーする管理業務をメインとしています。また、お客様のニーズに合致しているかを管理し、フィードバックを行っています。
― Autifyを導入した背景について教えてください。
村上様 ネット証券は、通常の対面証券と比べると動きが速いため、すばやく商品をリリースしなければなりません。一方で、品質の担保も重要です。ネットを介しての取引なので、お客様に提供したものにエラーが発生すると、その間も大量のトランザクションが発生してしまい、リカバリーまでお客様にご迷惑をおかけしてしまいます。品質は、かけたコストや時間に対して得られる成果が目に見えにくいという面もあります。スピードと品質のバランスは難しく、品質偏重になるとデリバリーが遅くなるため、問題意識を持っていました。
村上様 品質偏重になると、どんどん頭でっかちになってしまって、要件定義などの企画工程に時間を使いすぎてしまい、開発スピードが遅くなってしまうんです。できるだけデリバリーを早くするために、ウォーターフォールで短く回そうとすると、いかに要件を細かく刻むかという話になります。要件を刻もうとすると、どこの部分を中心に開発するかを選択する人材のスキルが問われます。
つまり、開発する部分を取捨選択するのは難しいので、すべて綺麗に整理していくためには企画工程に時間がかかりがちです。そこからまたアジャイルのスピード感に戻していこうとすると、お客様にデリバリーする前のテスト工程だけでなく、最初に企画をして、システムの機能として割り付けて、ビルドデプロイされて、テストを経てリリースされるという一連の流れをできるだけ自動化しないとうまく回らなくなります。弊社はいまその道半ばといった状況です。
さらに、他社との競争もあるので、新しい商品を他の会社に先駆けて提供することも必要です。システム開発する時には、企画の工程から実際に設計をして、製造して、単体の機能の確認をして、最後に全体を刈り取るという一連の流れがあります。それぞれのパーツごとに、どこを自動化できるか、スピードアップできるかを考えることも我々のミッションです。
課題解決に向けて検討していたとき、弊社が懇意にしていたSIerさんから「Autifyという商品がある」とご紹介いただきました。それが、Autify導入のきっかけになりました。
―Autifyを導入するにあたって評価ポイントとなったのはどこだったのでしょうか
村上様 導入に時間をかけたくなかったので、PoC(概念実証:新しい技術や手法の有効性を小規模に検証する手段)として導入し、使い方を半年ほど実演・発信したところ、いつの間にか社員が使うようになりました。やはり試してみないとわからないですよね。現在は、Autifyを利用して案件を4つほど並行してテストしています。2024年10月から日々の開発環境における無影響・稼働確認用途に全面的に導入しており、開発環境の安定維持に役立てています。さらに、実際の開発案件でも利用を拡大しており、近い将来には全案件での活用を見据えています。
Autifyの強みだと思うのですが、この商品はシステムの中身を知らない人でもテスト自動化できますよね。弊社の場合ですと、エンジニアのバックグラウンドがない方に弊社のPCサイトの取引画面をパターン分類してシナリオを登録してもらっています。お客様の立場で実際に使ってもらい、システム開発している人もそのシナリオを一部使うというところから始めました。
DevOps(ソフトウェアやシステムの開発と運用の領域を統合する手法や仕組み)において、開発環境の維持は大変重要なので、毎日全画面Autifyでチェックさせています。そうすると、ある担当者が他の機能に影響する可能性があるモジュールをリリースしてしまった場合でも、Autifyによって影響を受けるシステムをすぐに発見できます。開発環境の保守に使う時間を短縮することで、全体の開発の生産性を上げています。
また、Autifyは一度覚えさせると、何度も同じことを繰り返し行えるため、時間やコストを削減できる点もいいですね。
三菱UFJ eスマート証券では、2025年2月に社名変更を行い、その際Webサイトにおいて約2000箇所の修正が必要となりました。それを全部テストしてエビデンスを取るのはとても大変です。でも、Autifyなら、その画面に関してURLだけ指定して、そのURLに移りますというシナリオを作って実行するだけで、エビデンスが取れて、かつ新規の差分が取れます。新旧の環境を用意して、入り口だけ変えてそこから先は同じとか、一定の法則でURLだけ変更するというようなテストができる「テストプラン」は重宝させていただいています。
―Autifyを導入して改善された点はありますか
村上様 従来は、人件費の高い開発エンジニアが手動でテストを行っていたため、コストが高くなっていました。導入後はエンジニアよりもエンジニアバックグラウンドのない方でもテストができるため、コストの削減に繋がっています。さらに弊社はWindows系システムを多く持っていますが、Windows系システムはバージョン共存等での制約等が多く、Linuxなどのシステムと比較すると、本番稼動時に想定外の機能がエラーとなるケースがあります。この影響を極小化するために、これまでは手動でリリース前後のテストを行っていましたが、Autifyで網羅的に自動化できるようになったので、休日リリース時の出勤人数の削減や作業の短縮、作業の正確性を担保できるようになりました。今後はテスト環境でリリースする変更内容の影響範囲を早期に検知するだけでなく、本番環境での利用も拡大していきたいと考えています。
―Autifyへの期待や他の方にすすめたいポイントはありますか
村上様 Autifyは結合テスト以降に親和性が高い製品だと思っています。結合テスト以降のテストで品質を高めていこうとすると、無限に無影響確認テストをしていかなければなりませんが、Autifyでその部分の工数を圧縮することを目標としています。さらに、結合テスト以降を案件担当の人が都度テストをするのではなく、品質保証を専門とするチームに任せたいと思っています。すると、無影響部分の品質は担保できるので、機能に関しての確認はそれぞれの案件担当が行うことで、合わせ技ができるようになります。今はそこに対してのステップを考え、実践している最中です。
―御社では「Autify NoCode Web」をご利用いただいていますが、「Autify Nexus」を試用していただいている状況です。NoCodeで感じていた課題感などがありましたら教えてください
村上様 現在利用させていただいているAutify NoCodeでは実行スピードにもどかしさを感じることもありました。また、大量にシナリオを登録して実行すると、すぐステップ数の上限に達してしまう点も困っていました。案件ごとに切り分けや共有を行って管理したいとの思いもありました。そうしたなか、Autify NoCodeの延長線上でのレベルアップをご相談したところ、Autify Nexusが開発中であるとのお話を伺いました。比較機能や指定した時間に定期実行できる機能など、非常に使いやすいと感じています。
―最後に、AIが浸透してきたフェーズとなり、一般の人でもAIを使うことでテストができるようになってきていることについて、お考えを聞かせてください
村上様 AIは大変な勢いで進化してきていて、一年前と今では全然違います。弊社の場合ですと、恥ずかしながら一年前はMicrosoft Copilotを導入し、「AIを活用して議事録を自動的に作れてすごい」といった感じでした。でも今は、要件を3行入れたら、1時間後には新規サイトのWeb画面が何画面かできあがってくるという世界が近づいてきたという感覚に変わっています。
システム開発プロジェクトを担当したことがある方ならおわかりになるかと思いますが、1つのシステムの閉じた世界のなかでは機能が整理できているので、将来的にはAIがすべての分岐やバリエーションをテストしていくという世界になっていくと思います。
一方で、AIがもつハルシネーションのリスクの排除や、他の機能と整合性を保っているのかどうかの確認は、今後も人手に頼る部分が大きいと思います。弊社のように20年以上にわたって色々な商品を積み上げてきていると、こちらを直したけどこちらを直していないといった不整合が起きる可能性があります。こうした確認については、Autifyを使ってできるだけ効率化していくと、上から下まできれいに自動化ができるのではと、そんな夢を抱いています。
―弊社としても、AIドリブンな会社を目指しています。開発全体のプロセスをしっかりサポートしてまいりたいと思います。ありがとうございました!