損害保険ジャパン株式会社(以下、損保ジャパン)は、国内損害保険事業を中心に、海外保険事業や国内生命保険事業などを展開するSOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPOホールディングス)傘下の損害保険会社で、自動車保険や火災保険、傷害保険など、幅広い分野の損害保険商品を提供している。
SOMPOホールディングスは、DXを推進する戦略的組織として「SOMPO Digital Lab」を2016年に設立し、積極的な取り組みを行っている。グループ会社協業のもと、デジタル技術を駆使し、保険や介護といった従来の事業領域にとらわれない、新しい顧客体験価値の創出とビジネス革新を目指している。
損保ジャパンとしても、成長戦略を加速するために「イノベーション」に重点を置き、最先端のデジタル技術やデータ分析に取り組んでいる。2021年4月に新設した「DX推進部」は、進化するデジタルテクノロジーを見極め、人々に新しい価値をもたらす挑戦者であり続けること、また、これまでにない「安心・安全・健康」の体験価値の創造をミッションに掲げる。Autify Nexusによるテスト自動化もその取り組みのひとつだ。
先進的なDXを推し進めているグループ会社の株式会社SOMPO LIGHT VORTEXでは先行してAutifyを導入して成果を上げており、損保ジャパンのDX推進部におけるAutify Nexus導入によるテスト自動化はその流れを汲んだ重要な取り組みのひとつだ。
今回は、 Autify Nexusの導入と運用を担当する損害保険ジャパン株式会社 DX推進部開発推進グループ 課長代理 大貫裕也様、同主任 安藤隆行様、同主任 平田美由紀様に話を聞いた。
― 本日はお時間をいただきありがとうございます。皆様が所属しているDX推進部について、ご説明いただけますか?
平田様 DX推進部は、新たな体験価値を目指す組織として創設されました。全体を統括する「戦略グループ」、ビジネス部門をアシストしながらDXプロジェクトの企画立案から実行を担う「デジタル企画グループ」及び「ビジネス支援グループ」、内製開発を担う「開発推進グループ」からなっており、我々は開発推進グループに所属しています。開発推進グループは主にプロジェクトの内製開発を行っており、限られた内製要員で質の高い開発を進めていくことが重要ミッションとなっています。
安藤様 DX推進部の具体的な取り組みとしては、3つあります。1つめは、ワンチームのアジャイル開発です。従来の保険システム開発においては固定的なプロセスが多く、顧客ニーズの変化や、新たな課題への対応が遅れてしまう傾向がありました。こうした課題を克服するために、柔軟かつ迅速に対応できるアジャイル手法を採用して、現場と連携した課題解決型の開発体制を構築しています。
2つめは、生成AIの活用です。生成AIを取り入れることで、業務効率化と顧客対応の高度化を同時に実現するようにしています。今後も、新しい技術やデータを積極的に取り入れ、生成AIの応用範囲をさらに拡大し、組織全体の課題解決に貢献していくことを目標にしています。
3つめは、デジタル募集です。デジタル技術を活用した保険募集(保険募集人が保険契約締結の代理や媒介を行うこと)方式の変革を進めています。保険業法上、複雑な保険商品についてお客さまが十分に理解したことを確認する必要があり、そのために保険募集人が対面で説明をしていました。その手続きをデジタル化することで双方の利便性が向上します。この取り組みは保険業界における大きな変革であり、日本のマーケットでの新たな成長機会を創出することを目指しています。
ーワンチーム(内製)でのアジャイル開発を実践しているとのことですが、どのように構築されたのでしょうか
安藤様 アジャイル開発に不慣れなことも多いビジネス部門の参画メンバーに対しては、構想・企画段階からアジャイル開発の考え方やポイントを伝え、サポートする要員や体制を整えました。その結果、内製でのアジャイル開発を実現しています。
ーAutify導入の背景をお聞かせください
平田様 開発推進グループはユーザーニーズに対応するために短期間、高頻度でリリースを繰り返していますが、お客さまの保険契約に直結するプロダクト等もあるため、不具合によるリスクが大きく、常に高品質なものが求められています。一方で、高品質を維持するためのテストの負荷が高い状態にありました。そこで、テスト自動化ツールを導入して、品質向上による効率化と、それに伴って本来の業務への時間創出を目指すという目的を持って、Autify Nexusを導入いたしました。
ーありがとうございます。導入前にテストに関する課題はあったのでしょうか
平田様 テストの工数に関する課題が顕在化していることはありませんでしたが、どのプロジェクトにおいても共通の課題認識はあったと思います。というのも、開発フローにおいて、テストスプリントを設けてリリース直前にテストを実施していたため、バグの発見が遅れる傾向があったのです。
ーAutify Nexus導入に関して、評価いただいたポイントをお聞かせください
平田様 導入を決めたポイントはいくつかあるのですが、まず1つ目として「Playwright」コードを出力できることが挙げられます。現在は、UI上で作ったテストシナリオをコード出力して、CI/CDの一連の流れに取り込んでテスト実行するという環境の構築を目指しています。そうすると、コードデプロイ(本番環境への反映)した際に、都度E2Eテスト(End-to-Endテスト: UIを介してシステム上でのユーザーフローを検証するためのテスト)が流れていくようになり、その時点で何か障害があればすぐに発見できる体制が構築できます。
2つ目については、ローカル環境でテストが実行できる点です。ネットワークやブラウザなどが限定された社内の環境ですので、当社特有の環境でテストができる点はかなり大きなポイントでした。
3つ目としては、ユーザー数が無制限という点です。現時点では我々開発推進グループ6名が中心となって使っているんですけれども、将来的には開発推進グループだけではなく、人数を拡大してAutifyを利用したいと考えているからです。というのも、現在はリリース前にビジネス部門のグループがユーザー受け入れテストを実施しているのですが、その中には「プロジェクトの中ですでに確認済みの機能が、最新版でも正しく動作すること」(リグレッション観点でのテスト)の確認も含まれています。その部分の手間を省ける環境を目指すことも視野に入れています。
ーPlaywrightのお話が出ましたが、開発推進グループはPlaywrightコードを書ける人が多いのでしょうか
平田様 当グループでは日々プログラムを書いているメンバーが多いことから、Playwrightについて未経験であっても習得・理解は比較的容易であり、Playwrightコードが出力できる点は大きな魅力です。直接的にPlaywrightコードを書く機会が多くないメンバーにとっても、直感的にUIからテストシナリオを作成できるのはありがたいです。
安藤様 私は実際にPlaywrightコードを書いていますので、CI/CDで自動テストするという流れはできていました。あとはどれだけノーコードで作った自動テストをPlaywrightコードで出力するかという点にフォーカスを当てていました。
ーAutify Nexusを入れたことでどんなメリットを感じていますか
平田様 元々Playwrightコードでテストを書いていたチームもあれば、Autify Nexusを導入したばかりのプロジェクトもあります。後者はテストシナリオを一から作る「土台作り」が発生しているため、今は時間がかかってしまっています。しかし、土台作りができれば、その先は毎日テストが流れていくようになります。これは、品質保証的にはすごく価値のあることだと考えています。
安藤様 Autify Nexusの正式リリースの前に試用していた期間の話ですが、6~7割はAutify Nexusから出力したPlaywrightコードでテストが実施できました。現在はPlaywrightコードを書くエンジニアは2割程度といった状況ですが、自動出力できなかった箇所を手動で書けばいいので、工数削減に繋がっていくと感じています。
大貫様 Playwrightコードを出力できる点、Playwrightコードを編集できる点はやはり使いやすいと感じています。画面操作のレコーディングだけでは対応できない部分も一部ありますが、複雑な処理やフローについては、ある程度までレコーディングしてPlaywrightコードとして出力すれば、それを修正して再度Autify Nexusに取り込み、テストに利用することができます。私はPlaywrightコードをあまり書けないので、Autify Nexusが出力したPlaywrightコードをベースにインターネット上の情報を活用して改善していくことで、より良いものが作成できる点に魅力を感じています。
平田様 AIエージェントもいいですね。レコーディングでうまくいかなかった箇所でも、AIエージェントにプロンプトを投げ込むことで作成できたテストシナリオもありますので、今後も活用していきたいと思っています。また、リモート環境でテストシナリオを他のユーザーと共有できる点や、Autify Nexusの個人端末への導入からテストシナリオの作成までが非常にわかりやすく、まずはサクッとテストが作れる点も良いと思っています。
ーAutify Nexusの導入で業務フローや開発体制に変化はありましたか
平田様 Autify Nexusに関してはまだ基礎固めという段階ですので、業務フローの改善は今後取り組む予定です。
開発体制としては、今年度より部署内にQAチームを発足しました。これまではプロジェクトの中でエンジニアが品質確認もおこなう体制となっていましたが、5名からなるQAチームでDX推進部のプロジェクト全般を一貫した目線で確認することで、全体として品質を向上していくことを目指しています。まだAutifyを導入していないプロジェクトもあるため、今後はQAチームが主体となって開発プロセスにAutify Nexusを取り入れていく方法を検討する予定です。また、すでにAutify NoCode Web/Mobileを利用しているプロジェクトについては、Autify Nexusとの統合を検討していきます。
ーAutify Nexusに関して、ご要望などはありますか
平田様 Autify Nexusのサポート連絡が現状は連絡者だけしか参照できないため、他のユーザーとも共有できるといいと感じています。そうすれば、サポートへ出した要望などの解決策や対応状況がわかるので、同じ組織のユーザーでサポートへの連絡が参照できます。また、リモートで使うメリットも改めて感じているので、複数名で利用する場合を考慮して、テストシナリオの更新や削除などの履歴管理などができると、さらに運用が容易になると思います。
安藤様 誰かが書いたPlaywrightコードを逆にAutify Nexusに取り込むときなど、すでに動いているプロジェクトのPlaywrightコードと一元管理できる仕組みがあるといいですね。また、Autify NexusでPlaywrightコードを出力してCI/CDでの自動テストまで進めるような仕組みも欲しいです。
ー今後のAutify Nexus活用についてお聞かせください
大貫様 我々のDX推進部のミッションとして、人々に新しい価値を提供し続けるというものがございます。これを実現するために、要件の検討、設計、シフトレフトのQA活動(より上流工程でのテスト実施)、新技術の開拓などに時間を割くべきだと考えています。そこでAutify Nexusを活用し、品質向上と開発効率への貢献を実現させていこうと考えています。
ー本日はありがとうございました!